特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

By Joe Yokomizo 2016/10月号 P90〜94 |
現代人はどうメディアと付き合っていけばいいのか。劇作家の鴻上尚史(写真左)と映画監督の森 達也(写真右)に対談していただいた

"わからないことの豊かさ"を知る

―今回、鴻上さんは『天使は瞳を閉じて』を再演するにあたって、意識的に変えたところはあるんですか?

鴻上:冒頭の演出だけですね。前回この作品を上演したのは、2011年の8月だったんです。311の5ヵ月後くらいだったから生々しかったけど、今回は風化しているというか、"あれ? みんな終わったことだと思ってない?"っていう気持ちがあって。それで以前の公演の冒頭は文字だけだったんですが、今回は防護服を出演者に着てもらったんです。

『天使は瞳を閉じて』

舞台は、放射能に汚染されて人類が滅亡してしまった近未来の地球。ふたりの天使が透明な壁に囲まれた街を見つける。そこはかつて原発事故により"放射能汚染区域"に指定され、放射能を漏らさないために作られた壁で覆われていた。皮肉にも、その壁が街の人々を守ったのだった。それなりに楽しく暮らしていた街の人々は、やがて壁を壊して外に出ようとする。そんな彼らを天使はそっと見つめ続けていた――。1988年、29歳の時に鴻上が書き第三舞台で初演。今回、1991年、1997年、2003年、2011年に続く6度目の再演となった。
2016年8月5日〜9月4日に上演

―確かに。原発事故にしても、なかなか続報が目に入らないじゃないですか。新しいことを伝えないといけない部分はあるかもしれないけれど、過去に起こったことの追いかけ方にも問題があるんじゃないかなと思う部分はありますね。

:お芝居にもあったけど、放射能物質を微量摂取した影響力って、厳密には誰にも証明できないわけです。だけど、"メディアはわかりません"とは言えない。言えないのなら、ナシにしちゃおうっていうことで取り上げない。それは、今回の原発の報道でもたくさんあった。メディアがわからないと言えないのは、"何でわからないんだ"って視聴者や読者が怒るから。もしくはチャンネルを変えてしまうから。でもね、もう少しだけ"世の中はわからないものなんだ"っていう意識をみんなが持ったほうがいいと思う。あるいは、わからないことの豊かさ、面白さ。そっちに引っ張っていけるといいなと思うんだけど。

鴻上:いい話ですね。わからないことは豊かなんだよ。確かに、そこに持っていかないとダメなんだよな。わからないことは単に恐怖や不安なだけじゃない。豊かで楽しいことなんだっていうのを、うまく表現できたらいいなと思います。

:たかだか人間がわかることって、本当に少ないと思うんです。単純化されているからわかるだけで、本来、世界はそんなに単純なものじゃない。そういう意識を持つことが大事だと思いますね。

ローリングストーン日本版 2016年10月号掲載
特集:現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

SHOJI KOUKAMI

鴻上尚史 1958年、愛媛県生まれ。劇作家、演出家。81年、劇団「第三舞台」を旗揚げ、以降、作・演出を手がける。岸田國士戯曲賞、紀伊国屋演劇賞、読売文学賞などを受賞。2016年11月10日〜12月4 日、「KOKAMI@network vol.15 サバイバーズ・ギルト&シェイム」紀伊国屋ホールにて上演。
http://thirdstage.com/

TASTUYA MORI

森 達也 1956年、 広烏県生まれ。映画監督、作家。86年にテレビ番組制作会社に入社後、報道やドキュメンタリー番組の作品を手がける。98年、オウム真理教のドキュメンタリー映画『A』を発表。現在、単独監督作品としては15年ぶりとなる新作ドキュメンタリー映画『FAKE』が上映中。
http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/



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