特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

By Joe Yokomizo 2016/10月号 P90〜94 |
現代人はどうメディアと付き合っていけばいいのか。劇作家の鴻上尚史(写真左)と映画監督の森 達也(写真右)に対談していただいた

―鴻上さんが過去の舞台『トランス』で書いた"真実は存在しない。解釈だけが存在する"という台詞は、メディアと接する際の大事な視点なのかなと思いました。

:ニーチェですね。それがメディア論の本質だと思います。だから、そういったいろんなバリエーションを含めての嘘があると解釈すべきだと思うんです。僕は、メディアが自覚的な嘘をつくことはめったないと思う。だってハイリスク・ローリターンすぎるもの。

鴻上:それは思いますね。

:これだけネット社会になってしまったらね。じゃあ、なんでメディアが同じ過ちを繰り返すのかというと、それは彼らに嘘をついている自覚がないから。そういった意識を持てば、相当メディアへの接し方が変わると思います。

規制メディアを変えるインターネットの可能性

鴻上:僕は、ネットはテレビに対する可能性としてすごく積極的に捉えたいんだよね。だからメディアリテラシーを成長させるのも、ネットしかないなと思っていて。"テレビでやっていたこれは嘘だ"とか"やらせなんだ"とかっていうことを暴いて、本音を語れるのはネットしかないじゃない。ネットはマイナスのほうに働くこともあるけど、ちゃんとプラスに働くシステムとして存在してくれたらいいと思うんだけど。

:僕も同意見というか、それしかない。日本の場合は匿名性とかネガティヴな意味で繋がってしまっているけど、本来ネットには、もっともっと使い方があるはずだし、それこそアラブのジャスミン革命は、現在の評価はどうあれ、SNSではじまったわけでしょう? 結果的にあれがよかったかどうか別としても、本来そういうポテンシャルがある。けれど、日本ではなかなかその方面で使われていることはないからね。みんなが正しく理解すれば、可能性は絶対にあるはずだし、他に既成メディアに勝てるものなんてないですよ。テレビや新聞は絶対に変わらないから。徐々に衰退するだけで、構造的に、自分たちで変えることは100%ありえないから。僕らがネットによって意識を変えて、それによって既成メディアが変わる。その手順しかないと思う。

ニュースのプライオリティを決めているのは誰か

鴻上:ただね、ネットのニュースを書く人もあんまりリテラシーが高くないっていうかね・・・。いわゆる大新聞に比べて、ネットのほうが圧倒的に記事量が多いでしょ。だからすごくたくさんの人が書いているわけじゃない? この前、ネットニュースで、ポケモンGOが問題だという記事を読んで笑っちゃったんだけど、"20代とみられる男性が、熊本城の案内人に『ポケモンGOをプレイしたいから、立ち入り禁止区域内へ入りたい』と言った。案内人が危険であると説くと、男性は立ち去った"だって。これって、すごくまともなことじゃないですか。これがニュースになっていたんですよ。

:つい数日前、高校の保健体育の教師が教卓に試験問題を置き忘れ、生徒が撮影して試験前にLINEで流していたことが発覚したので試験をやり直した。これが全国ニュースになりました。テレビでも報道されたようです。でも要は、地方の一高校の期末試験で起きたカンニングです。それが全国ニュースになっている。プライオリティがおかしくなっている。

―ニュースのプライオリティについてはどう考えたらいいのでしょう? 取り上げられるかどうかって、起きるタイミング次第ですよね。

:つまり、ニュースには毎日トップがあり、新聞には一面がある。ただ、そのトップニュースが毎日同じ質量かっていえば、もちろんそうじゃない。日によってはニュースになるようなことが少ない日もあるわけだから。そういう時は、普段なら4、5番目のニュースがトップに来る。そういう構図がわかっていないと、すべて等価になっちゃうよね。

―ええ。

:それと、たぶんメディア自身、ニュースのプライオリティがわからなくなっているから、期末試験のカンニングが全国ニュースになっちゃうようなことが起きているんじゃないのかな。

鴻上:先日は、"安倍首相、里帰り"っていうニュースがテレビで延々流れていましたけど(笑)。僕もラジオ番組をやっていた時に思ったけれど、取り上げたいニュースがたくさんある週と、あまりなくて困ったなっていう週がある。なくてもニュース番組の場合は"これがトップニュースかよ"っていうものを取り上げるしかない。そういうカラクリを知っているだけでも、すごく大きいですよね。要は、ちゃんとした基準があって決まるものじゃない。

:いちばんの根源は、メディアも人がやっているってことです。天から指示が降りてくるわけでもないし、コンピュータが絶対的な計測をしているわけでもない。スタッフが集まって、"今日のトップは何にする?"とか"こっちのほうが、数字がとれる"とか言って作っているものを、僕らは見ている。そこを理解すれば、だいぶ見方が変わると思いますよ。

鴻上:あと、日本は同じニュースを延々とやりがちですよね。他局と横並びになっていることもありますけど。この前フランス帰りの人と話していたら、"公園で遺体が見つかったというニュースを一日中ずっとやっている。パリだったら、もっと大事なことがたくさんあるから、少しやるだけだよ。日本はどのチャンネルを見ても同じニュースばっかりやってるよね"って。それは同調圧力で、横並びのことをやらなきゃいけないことと、みんなが同じ話題を語りたがるっていうのが合ってしまった結果だと思うけど。日本のメディアってそういうものなんだなってわかっておくだけで、随分違うと思いますよね。

:日本は事件報道の割合が、世界でもトップクラスです。世界一かもしれない。殺人事件とか起きようものならこぞって記事にするけど、ヨーロッパやアメリカではそんなに大きな記事にしない。そもそもアメリカなんて、よほどじゃないと報道しないですよ。きりがないから。

鴻上:確かに。

:この国はものすごく治安がいいからね。これもおそらく世界一です。ところが、事件報道も世界一なのは、すごくねじれていますよね。だから、不安や恐怖をみんなが持ってしまう。でも、なぜメディアがそれをやるかっていうと、事件報道をみんなが観たがるからです。

鴻上:ますます加速していきそうな気がしますね、この傾向は。

:止まる理由がないから。

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