特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

By Joe Yokomizo 2016/10月号 P90〜94 |
現代人はどうメディアと付き合っていけばいいのか。劇作家の鴻上尚史(写真左)と映画監督の森 達也(写真右)に対談していただいた

映像が持つ影響力とリテラシー教育の可能性

―じゃあ、その〝賢くなること〟=メディアリテラシーを養うためにはどうしたらいいのか、っていうことですよね。

鴻上:森さんの映画『A』と『A2』を観て、"カメラがどっち側に立つかによってこんなに印象が違うんだ"っていうことがすごくよくわかった。つまり、"どっちに視点を置くかで見方は変わる"と、言葉では誰にでも言える。でも、いざ映画でオウム施設内部から外で抗議をしている人を映すだけでここまで印象が違うというのを映像で見ることは、すごく大きいと思うんです。

:映像の影響力は大きいです。5年ほど前に、車に轢かれて路上に倒れている幼女の横を多くの通行人が素通りしていくという映像が、ネットで拡散されました。場所は中国の地方都市です。確かテレビのニュースなどでも紹介されたんじゃないかな。当然ながらネトウヨは"中国人の正体を見た"と大喜びしました。

鴻上:ありましたね。

:でもこの映像は、実はトリックです。この監視カメラの映像を紹介した中国のテレビ局のディレクターが、映像の明度を思いきりあげて明るくしていたことが後にわかったんです。本当は夜なんです。だから、通行人は見て見ぬふりをしているんじゃなくて、暗くて気づかなかったということらしい。

鴻上:何のためにやったんだろう?

:話題性と視聴率でしょうね。当然ながらディレクターは処罰を受けました。これほど世界的に騒がれるとは、彼も思っていなかったみたいですが。だから、中国の人たちの多くは、この一件がやらせだったと知っている。ところが日本では、実はトリックだったとの情報が流通していない。情報として面白くないと判断されたのかもしれないし、かつて大喜びしたネットユーザーの多くにとっては、あまり喜ばしくない情報だからかもしれない。ウィキペディア
日本版では今も、〝事件の背景には、中国の刑法や罰金制度に欠陥があり、社会道徳の欠如が指摘されている〟というまとめ方をされています(「中国仏山市女児ひき逃げ事件」8月27日現在)。こうして多くの人たちは今も、中国の一般人はとても冷酷だと思っている。つくづく映像って怖いなと思いました。

―そうですよね。

:もうひとつ、ヨルダンのパイロット、(ムアズ・)カサースベ中尉がISに火あぶりにされた映像がありますよね。ネットで公開され、その報復としてヨルダンはISに空爆をはじめた。要するに、有志連合に空爆する大義を与えてしまったんです。でも、考えてみたらISは基地を持っているわけではないから、有志連合の空爆によって一般市民にも相当なダメージを与えているはずです。住居が崩れ、そのなかで火がついて、たくさんの人がカサースベ中尉のように焼け死んでいる可能性は高い。じゃあ、なぜ多くの人は、一般市民の被害に対しては反応しないのか。そこにカメラがないからです。映像の力で世界の世論が簡単に変わってしまうし、それによって取り返しのつかない過ちも起こしかねない。というか、過去に実際起こしている。特に映像は、情感を刺激するから。

:そうなんですよね。

RECOMMENDED

TREND