特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

By Joe Yokomizo 2016/10月号 P90〜94 |
現代人はどうメディアと付き合っていけばいいのか。劇作家の鴻上尚史(写真左)と映画監督の森 達也(写真右)に対談していただいた

―確かに、炎上って保守がリベラルを叩く構図が多いように思えます。

:いろいろ理由はあると思うけれど、ネットは右との相性がいいんだろうね。

鴻上:そういう結論にしますか(笑)

:つまり、短い言葉で人を罵倒しやすいんじゃない?

鴻上:ただ、68年の学生運動の時代にネットがあったら、僕は右翼がバッシングされていた気がするんです。"世界で革命が起こるのが当たり前じゃん"って。

:なるほど。

鴻上:その時代にもしあればね。今は無意識に右に振れている感じがする。それも何でなのかな? と思いますが。

:僕はやはり不安と恐怖だと思いますけどね。それがずっと拭えないから、"強いものに守ってほしい"とか"武器がほしい"とかになってしまう。

鴻上:でも、実際に不安と恐怖はあるでしょう?

:もちろん人間だからあるけれど、例えば中国がどうだ、とか。

鴻上:そっちの恐怖ね。

:例えば安倍晋三首相が、集団安全保障法制の記者会見(2015年5月14日)で"自衛隊機の緊急発進、いわゆるスクランブルの回数は、10年前と比べて実に7倍に増えています"と言いました。そう聞くと"安全保障関連法が変わって当たり前だ"って思ってしまうでしょ。でもここにはトリックがある。10年前は、戦後最もスクランブルが少なかった。増えたのは第一次安倍政権の時期です。そもそも冷戦期には、今よりもスクランブルは多かった。ところがそうした細かな要素が消えてしまう。わかりづらいからです。わかりやすい敵を政治権力は提示するし、メディアも乗っかってしまう。そのほうが、数字が上がるから。そうした状態が続いているからこそ、多くの人が見えない敵を可視化したいと思う。見えないから怖いわけだから。可視化したら、この場合、敵は中国や北朝鮮になりますよ。これに対して"いや、中国、北朝鮮は危なくないよ"という言葉には全く説得力がない。

鴻上:それはわかりますよ。わかるけれど、結局、根本に生活の不安や経済的な不安があるからこそ、恐怖の煽りに乗っかりやすいわけでしょう。それこそ、経済的に右肩上がりだった時は、中国の恐怖を煽っても"そうかもしれないけど、民間レベルでビジネスをやっていれば大丈夫"って思っていたわけで。だから、中国と北朝鮮に対する不安と恐怖には、リベラルは応えられないかもしれない。だけど、生活とか経済的なものとか、いわゆる未来に対する若者の支えのなさに対しては何かできる気がしますけど。

:そうですね。

鴻上:昔、リベラルには、"個として強くなれ"というメッセージがありましたよね。僕も演劇でずっとやっていたけど。"個人として強くなれ"っていうのは、つまり自らの不安や恐怖に向き合える強い人間になりましょうってことで。その方法は、知性をつけることしかない。その"賢くなること"が、つまりメディアリテラシーをつけることだと思うんです。要は、メディアを見る時に複数の視点を持つという意味で賢くなることで、不安と向き合おうとしたんですよ。

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