特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

By Joe Yokomizo 2016/10月号 P90〜94 |
現代人はどうメディアと付き合っていけばいいのか。劇作家の鴻上尚史(写真左)と映画監督の森 達也(写真右)に対談していただいた

―僕もこの芝居からメディアに対するさまざまな見方を享受しました。作品中に「わかりづらいものは売れない」というような台詞が出てきますが、森さんもメディアが、本当か嘘か、善か悪か、というふうにわかりやすく二極化していることへの危惧をずっと話していますよね。

:"わかりやすさ〟ということで言えば、先日ちょうど鴻上さんと話してたよね。この流れは95年以降だって。

鴻上:阪神淡路大震災とオウムの事件(地下鉄サリン事件)があった95年を境に、芝居にもわかりやすさを求めるようになったという話ですね。それに追加して、森さんはウィンドウズ95が出た年でもある、と。

―震災とオウムがわかりやすさを求めることにどう繋がったのですか?

鴻上:95年を境に芝居の観客の反応が変わってきて、"一回観てわからない作品は失敗作です"とか、"わかりにくい作品を書くあなたには才能がないと思います(18歳、高校生)"みたいなアンケートが来るようになったんです。僕だけかなと思ったら、演劇界で何人か同時にそんなことを言う人がいました。ナンセンスコメディがまったく受け入れられないという人もいました。無意味であることに人々が耐えられなくなった。阪神淡路大震災やオウムの事件を見て、こんなに世界がわけのわからない状況なのに、無意味な(不条理な)芝居なんて観ている場合じゃないぞって多くの人が思ったということなんでしょうね。同時にSFが売れなくなり、推理小説ブームが始まった。"どんなに複雑に見えても必ず正解があ
る"というものを求めるようになったんです。

:その背景を僕の語彙で言えば、生存への不安と恐怖を社会全般が持ってしまったから。

鴻上:それはネットによってですか?

:ううん。直接的には地震があり、オウムの事件があったからです。いつ自分が愛する者が死んでしまうかわからないという不安感、恐怖感が刺激されて、みんなでまとまろうという空気になった。そして"集団化"が起きる。集団=群れですから、全体で動こうとして、同調圧力が強くなる。さらに、全体で動くためには単純な言葉をみんなが欲するようになる。その結果、マッチョな政治家をみんなが求めるようになった。そうした関連の中で複雑さを拒否し、よりわかりやすいものを求め出した。さらにネットが登場したことで、既成のメディアは競争原理をどんどん煽られてしまった。より市場原理が強くなった結果、刺激的でわかりやすいものをみんなが求めていく。そういったことが重なり、今の状況になっている気がします。

"不安と恐怖"に対抗するための知性=メディアリテラシー

鴻上:そうね。だから絶対にネットで炎上しない条件が3000字以上の記事だっていう。

―長いものは読まれないから?

鴻上:そう。3000~5000字くらい長々と書くと反応がないらしいです。

:僕、最近炎上しましたよ。

鴻上:それはどうして?

:週刊プレイボーイのインタヴューで、参院選前に、選挙について若者に一言言ってくれと依頼があってね。僕が教えている大学の学生に"どこに投票する?"と聞いたら、だいたいが自民党だと言うんです。"じゃあ憲法は?"と聞くと"憲法はこのままでいい"と言う。だから、"どこに入れてもいいけど、しっかり知ってから投票すべきだよ"って。その話をした記事が、ネットに転載されて炎上したんです。記事は長いんだけど、"未成年は選挙に行くなと森 達也が語る"っていうまとめ方をされて、"民主主義を否定している!"と大騒ぎになったんです。

鴻上:長くても、まとめられちゃうとわかりやすくなりますからね。でも今の話を受けたうえでメディアリテラシーと絡めて言うと、不思議なのは"今喋っているようなことがなぜちゃんとみんなに届かないんだろう?"と僕は思うんです。自民党の憲法草案を見れば、どれだけヤバいかわかるじゃないですか? それをいくら言っても圧倒的に自民党が勝っていく。つまり、リベラルと言っていいのかわからないけど、リベラル側の言葉がまったく無力なのは何でなんだろう? と。それに、リベラル側の発言はすぐに炎上するでしょ? 選挙中に、政治家の日本会議系の集会での映像がネットで出回ったけれど炎上しないし。それも何なんだろうなと思いますね。

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