全米で増加中、授乳関係を持つカップル(ANR)の実態とは

チェルシーの妻は12年前に結腸の全摘手術や小腸の一部を切除する手術を受け、慢性的な吸収不良症候群による発作を起こすようになった。そのため、チェルシーは最後の手段として乳分泌を誘発してみようと決意した。彼女は母乳に含まれる細菌によって乳幼児の消化管の健康状態が改善されることを知っていたのだ。「私の母乳に含まれる生体酵素や生物学的に利用可能なビタミンは、妻の慢性的で命をすり減らすような下痢の症状を緩和させただけでなく、最終的には従来の医療コミュニティが勧めていた処方薬のビタミン療法を活用できるようになりました」。そのため、彼女の消化器官はこの治療法にも耐えられるようになったと、チェルシーは説明する。母乳の健康効果はチェルシーと彼女の妻のケース特有の話ではなく、人間の母乳から発見されたある物質にはがんと闘う潜在能力があると示唆する研究結果も出ている。信憑性は不確かだが、母乳を飲んでがんや化学療法の副作用の治療をしているという逸話を語る人まで存在する。確実な研究結果はまだ出ていないが、チェルシーと彼女の妻は、「彼女が治療で行った他のあらゆる医療行為では何の改善も得られなかった」ため、彼女の全体的な健康状態が改善したのは母乳を飲んだからであると確信している。

ANRの当事者たちは自分たちの関係を大いに楽しんでいるが、彼らの多くはその関係を永遠に続ける必要があるとは思っていない。クリストファーの今のパートナーは母乳を出すことができないため、新しい関係はANRのスタイルでなくても良いと彼は述べる。エリーも、最近家族のひとりを亡くした時など、大きなストレスを感じる時は母乳の供給量が減る傾向にあるという。彼女が母乳の供給を元に戻そうと努める間、母乳を失うことで、既にギャレットとの間に築いた関係が壊れてしまうわけではないと考えている。

ANRのコミュニティは、彼らのライフスタイルの選択に関する批判や悪いイメージがなくなり、皆が落ち着いてお互いを認め合うことができる社会になってほしいと願っている。「今の社会ではANRに関する誤解を解くのは難しい」とクリストファーは述べる。

チェルシーは、私たちの社会が考える母乳や授乳のあり方、そして母乳を出す行為に対する悪いイメージを気にしている。「(性行為中に)母乳が出たとします。もしあなたが、それは気持ち悪いことだとか、そんなことをするのは変人だけだとか書かれた記事を読んでいたとしたら、それを気持ち悪いと思っていない人たちがもっと恥をかくことになります」。ANRの当事者たちが変人であるという意見は大きな誤解であり、ANRのコミュニティの人たちは皆、その誤解を解きたがっているとチェルシーは述べる。「人間のミルクを他の人間に与えることの何がそんなにおかしいのでしょうか?」とチェルシーは不思議に思っている。「私たちは他の動物のミルクを飲んでいるのに、自分と同じ人間のミルクを飲むのはいけないことなのでしょうか」?

* これらの個人名は仮名です。

Translation by Shizuka De Luca

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