連載|野村訓市が思い描くホテルの理想形:第一回 チェルシーホテル

By Kunichi Nomura 2016/06月号 P129〜0 |
ローリングストーン日本版2016年6月号掲載  連載:A Hotel with No Name/ 野村訓市 stay.001 チェルシーホテル(Bettmann)
ローリングストーン日本版2016年6月号掲載 
連載:A Hotel with No Name/ 野村訓市 stay.001 チェルシーホテル

時には一泊10ドルの安宿に、時には古都に鎮座する老舗の名宿に。ラグジュアリーな高層デザインホテルから、荒野にひっそりと構えるモーテルまで。無数の旅の実体験から生まれた、野村訓市が思い描くホテルの理想形。

歳をそれなりに重ねてくると、周りの人間がいつの間にかマンションを買ったり、家を建ててたりする。払う家賃がもったいないだの、男なら一戸建ての主になるのが夢だの、いろんな理由がおありになるのでしょうが、一体それのどこがいいのか俺にはわからない。どうせ帰って寝るだけの場所、遊びにも仕事にも近いのが一番なわけで、じゃあ便利な近場に住もうとすると得てして、土地が高い。無理して買ったちっぽけなマンションや家に自分の妄想を詰め込んで、わけのわからんライフスタイルのモデルルームのような家に住む。それでもってそのローンを一生払う。男なら、理想はもっと高く持つべきだ。昔のロックンローラーはホテル暮らしだったじゃないか。毎日ベッドメイキングしてもらって、好きな時に飯を頼めて、その他もろもろ何でも頼めて、飽きたらホテルを変えればいい。これぞ本当のゴージャスな暮らしじゃないの? それで金がなくなったら、払えるだけの家賃の物件のあるどこか田舎なりに引っ込めばいいのだ。ニューヨークでミュージシャンやアーティストがたくさん住んだ「チェルシーホテル」のようなホテルだったら、長期契約で内装までいじれる。一度名物マネージャーが引退する前、ホテルの中の部屋をいろいろ見せてもらった。ここがウォーホルの取り巻き、「ウォーホルスーパースター」が10年以上住んだ部屋だというと中は全部紫に塗装され、とんでもないふうに改造されていたし。70年代にカリフォルニアのトロピカーナホテルに住んでいたトム・ウェイツは部屋にピアノまで持ち込んでそこで作曲をしていた。飲んで、騒いで、眠って、食って、遊んで、仕事までできる場所。それがホテルだ。すべてが完結した、まるで垂直に伸びる小さな街、それがホテルだ。男であるならば一度はホテルに暮らさなければならないんじゃないんだろうか? 俺は常々そう考えている。では、どんなホテルに暮らすのがいいのか?もちろん金があったとしても、ただ高ければいいってもんじゃない。逆に安くていいホテルもたくさんあるはずだ。俺が住むならどんなホテルか?
Edit by Hiroshi Kagiyama

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