ビートルズ『Love』10周年、ポール、リンゴらがリニューアル版のショーを祝う



今年90歳で亡くなったビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンを悼み、この記念公演には"大いなる敬意と称賛"が込められている。山高帽をかぶった浮浪者風情の舞台監督が、この日フランスのニースで起きていた暴力事件を示唆して次のように語った。「最近の事件に即して、お伝えしたいことがあります。我々は、このご時世にあって、ビートルズが広く世界に届けてくれている平和と愛をシェアできることに感謝しております」

客電が落ちるとビートルズのメンバーのおしゃべりが会場全体に流れる。「本番だよ」とジョン・レノンの声がする。「準備はいいかい、ハニーちゃん」とマッカートニーの声が尋ねる。こうした効果音の直後に、『ビコーズ』の幽霊のようなアカペラが流れる。純粋でソウルフルなハーモニーにあわせて、男性の曲芸師がゆっくりと天井に向かってロープを登っていく。

次いで『ア・ハード・デイズ・ナイト』のオープニングがジャーンと鳴り響き、そこに『ジ・エンド』から取られたスターのドラムソロがマッシュアップされている。『ゲット・バック』を歌うマッカートニーの声も聞こえる。ステージには赤いレンガの煙突が立っていて、まるで古い屋根の上のように見える。するとすぐに煙突が爆発する。ビートルズのメンバーが生まれた頃、第二次世界大戦中のイギリスを想起させる光景だ。『エリナー・リグビー』のストリングスが伴奏されている。

これが、ファブ・フォー、蛍光色(デイグロー)のダンサー、エッグマン、ブルー・ミーニーなほほえみを浮かべる警察官などのイメージが錯綜する2時間にわたるビートルズの音楽の、鮮烈なオープニングである。



こうした記念公演があるということは、つまりその週は幅広いビートルズ関係者の同窓会が行われたということでもある。ショーン・レノン、ダーニ・ハリスン、スターの親戚ジョー・ウォルシュらが前夜の夕食に集まった。「楽しい時間を過ごせたわ」と語るのはジョージ・ハリスン未亡人、オリヴィア・ハリソンだ。「これまでにないくらい、家族的なものだった。みんな優しくて親切な人たち。本当にお互いを支え合っている。心のこもったハグを交わし合って、とてもすばらしかった」

『Love』は3月からリニューアルされており、その後数か月のプレビューを経て、今週の公式なお披露目に至った。ジョージ・マーティンは変更点について了解はしていたが、体調が優れず実際には参加できなかった。「父が亡くなったことは大きな哀しみだった」とジャイルズは語っている。「ただ救いは、今もこれからも、音楽は残るということだ」

公演の終わりには、出演した曲芸師や演者がステージに戻り、スタンディング・オベーションに答えてお別れの手を振っているところに、マッカートニーとスターが登場した。「来てくれてありがとう」とスターは観客に語りかけた。「皆さんがいなければ、彼らが寂しがる」

マッカートニーは演者に感謝の言葉を述べた。「僕にも曲芸はできるんだけどね、そういうことをばらしたくないからさ」。そして彼は、この夜にふさわしい、自分の出身バンド永遠のメッセージを繰り返したのだった。「皆さんのことを愛しています。愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)」



<訳注>
ファブ・フォー:
ビートルズのニックネーム


デイグロー:『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のアルバムジャケットでビートルズメンバーが着用している軍服の色のこと

エッグマン:『アイ・アム・ザ・ウォラス』の歌詞に登場する空想の生物。

ブルー・ミーニー:映画『イエロー・サブマリン』に登場する空想の生物。


Translation by Kuniaki Takahashi

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