ビートルズ、『リボルバー』への道を開いた『ペイパーバック・ライター』の革新性とは

「ベースの音がこれほどまでの興奮で愛聴されたのは『ペイパーバック・ライター』が初めてのことだった」と、エメリックはマーク・ルイソンの著作『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版』の中で述べている。「まず手始めに、ポールが新しいベースを持ち込んだ。リッケンバッカーだ。それから我々は、ラウドスピーカーをマイク代わりに使って、さらに音をブーストさせた」



マッカートニーがその時点で比類なき多彩なベース奏法の技術を持っていたこともけしてマイナスにはならなかった。人を素直には褒めようとしないレノンも、マッカートニーは「史上最も革新的なベース・プレイヤーの1人」だと評したほどである。そして、そんな革新が、エネルギッシュで過剰でホットなバンドの枠組みに組み込まれていたのである。

「『ペイパーバック・ライター』は初期の作品と比べてもヘヴィーなサウンドになっている。ヴォーカルワークもとてもよくできていた」とプロデューサーのジョージ・マーティンは語っている。「そんな風に仕上がるようになってきていたということだと思う。この頃には彼らの曲作りで、リズムが最も重要になってきていた」

ビートルズにとってスタジオそのものが1つの重要な楽器になっていた。そしてこの曲は、ビートルズがスタジオという楽器の演奏方法を学んでいて、すでに熟練の味を出している初期の作品なのである。ATOC(信号過入力自動制限装置)のことである。

「ATOCは大きな箱に点滅するランプが付いているもので、まるで一つ目巨人のキュクロプスににらまれているようだった」と『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版』で説明しているのは、『ペイパーバック・ライター』マスターディスクの録音を担当したトニー・クラークだ。しかしこの"巨人"が『ペイパーバック・ライター』を、あり得ないほどにベースの音圧を高めつつも、レコードプレイヤーの針が飛ばない曲に仕立てたのだった。

歌詞もまた、新しかった。最初のAメロの部分は手紙の形式を取っており、語り手は何年もかけて書いた原稿を売り込もうとしている。我々はだいたいいつも、ビートルズのジョーク王兼言葉の魔術師といえばレノンだと考えているが、この曲のマッカートニーはなかなか健闘している。原稿はリアという名前の男の小説に基づいているという。リアというのは、シェイクスピアのリア王と、スペイン語の"leer"という動詞(読むという意味だ)をもじっている。マッカートニー流のだじゃれだ。

この頃のマッカートニーは、バンドの目利き役として、劇場や映画館に通い、本を読み、対談を楽しみ、カルチャーをあさっていたのだ。

「念頭に置いていたのはペンギン・ブックスのペーパーバックだよ。典型的なやつだね」とマッカートニーはバリー・マイルズの著書『ポール・マッカートニー:メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』で語っている。「ウェイブリッジに着いて、"出版社に売り込んで作家になりたがっている人の曲"、というアイデアをジョンに話した。それで、"手紙のような歌詞にすべきだと思うんだ"とか言って、紙を取り出し、"拝啓、突然のご連絡をお許しください・・・"とかでなくちゃね、などと言いながら、ジョンの目の前で本物の手紙のように書き進めていった。時々韻を踏んだりしてね」

マッカートニーはこんな風に芸術家気取りでもありながら、一般受けもするのだ。つまり『ペイパーバック・ライター』は他のビートルズの曲と同じく、

Translation by Kuniaki Takahashi

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