『ワイルド・スタイル』から『8マイル』まで、傑作ヒップホップ映画20選

『シカゴ』(2002年)

1920年代のシカゴを舞台にしたミュージカルの映画版である本作とヒップホップを結びつけるもの、それは『クイーン・オブ・ロイヤル・バッドネス』こと、クイーン・ラティファだ。マトロン・ママ・モートンに扮した演技が高く評価され、彼女はアカデミー賞にノミネートされた史上2人目のラッパーとなった。(ウィル・スミスは2001年作『アリ』で同賞を獲得している)作品賞を含むアカデミー賞6部門を獲得し、興行収入3億ドルを記録した本作は、彼女の女優としての地位を確固たるものにした。以降彼女は数多くのメジャー作品(『女神が家にやってきた』等)への出演、トーク番組の司会、そしてCoverGirl誌の表紙を飾るなど、マルチタレントとして活動の幅を広げ続けている。

『8マイル』(2002年)

『ロッキー』と『ベスト・キッド』を組み合わせ、格闘シーンをラップバトルに置き換えたものが『8マイル』だとする声は少なくないが、本作にはそういったオリジナリティの欠如を補って余るだけの魅力がある。現実さながらに自身をとことん中傷するエミネム(クライマックスのバトルシーンでは「俺は白人のクズだ」とラップする)の演技が光る本作は、評論家たちからも高く評価され、公開後の最初の週末だけで5100万ドルの興行収入を記録した。また同作の主題歌『ルーズ・ユアセルフ』は、アカデミー賞の歌曲賞に輝いた史上初のヒップホップ・トラックとなった。

『ハッスル・アンド・フロウ』(2005年)

「誰もが夢を抱くべきなんだ」テレンス・ハワード演じるピンプのカリスマ(そんなキャラクターが過去にいただろうか?)、Dジェイは心に傷を負った女性たちの売春を斡旋して生計を立てながらも、心のどこかではそう信じていた。その生活を抜け出すために、Dジェイはラップスターへの道を歩み始める。優れたサウンドトラックとともに描かれるDジェイのリアルな苦闘は、観るものをその世界観に引き込んでいく。今となっては時代遅れに感じられる部分も少なくないが(『スキニー・ブラック、俺のデモテープを聴いてみてくれ』というプロットは典型的だ)、Dジェイの彼女シュグを演じたタラジ・P・ヘンソンとハワードのタッグによる迫真の演技は、後に『Empire 成功の代償』に夢中になる人々の心を揺さぶった。またテネシー州メンフィスを舞台にした本作は、ニューヨークやロサンゼルス、あるいはマイアミやアトランタばかりがヒップホップの中心地ではないということを主張してみせた。

『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』(2005年)

『クラッシュ・グルーヴ』で確立されたヒップホップの伝記映画というジャンルは、エミネムの『8マイル』で息を吹き返した。その流れに便乗した50セント主演の本作に対する評価は厳しかったが、ヒップホップ映画としては一見の価値がある。50セントの演技そのものは優れているとは言い難いものの、『ゲーム・オブ・スローンズ』への出演で知られるアドウェール・アキノエ=アグバエが演じたマジェスティック(クイーンズの大物ギャングであるケネス・『シュープリーム』・マクグリフがモデルとなっている)とのバトルを経て、ドラッグディーラーからラップスターに成り上がっていく50のライフストーリーを描いた本作は、物語としては十分に魅力的だ。実際にはストーリーの大部分がフィクションである本作が説得力に満ちているのは、監督を務めたジム・シェリダンの手腕があってこそだろう。

『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)

史上最高のラッパーの1人でありながら、数々の女性(フェイス・エヴァンス、リル・キム、そして長男の母親であるジャンを含む)を非情に扱ったことでも知られるノトーリアス・B.I.G.の伝記映画である本作だが、その評価は大きく分かれる。クリストファー・ウォレスに扮したジャマル・ウーラード(彼は『グレイヴィー』という名で実際にラッパーとして活動している)は、様々な声色を自在に使い分けたビギーを見事に演じてみせたものの、パフ・ダディ役にデレク・ルーク、そしてトゥパック役にアンソニー・マッキーという配役には誰もが首を傾げずにはいられなかった。また1995年のソース・アウォードでビギーが残した有名なスピーチをシュグ・ナイトが再現するシーンには、多くのファンが違和感を覚えた。それでも公開後最初の週末だけで2000万ドルの興行収入を達成した本作は、『ストレイト・アウタ・コンプトン』に代表されるヒップホップの伝記映画リバイバルの先駆けとなった。

Translation by Masaaki Yoshida

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