13位『Ray/レイ』(2004年)

故レイ・チャールズを演じ、アカデミー主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックスの迫真の演技が、人々に愛されたR&Bのパイオニアの50~60年代の全盛期を描くこの映画を支配している。彼は、2004年秋、この大ヒット映画の公開直前に他界したチャールズを、風貌から、足を引きずる歩き方、声のイントネーションまで、完璧に再現している。チャールズの妻、ビーを演じた(後にテレビドラマ『スキャンダル 託された秘密』で大スターになる)ケリー・ワシントンや、チャーリーの辛抱強いアシスタント、ジェフ・ブラウンを演じたクリフトン・パウエルなど、この映画の助演陣はひどい。しかし、チャールズの愛人のひとり、バック・コーラスのザ・レイレッツのマギー・ヘンドリクスを演じたレジーナ・キングは、本当に目っけものだ。彼女もアカデミー賞にノミネートされるべきだった。(MR)

12位『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)

主人公の年老いた、厭世的なテナー・サックス奏者デイル・ターナー(バド・パウエルとレスター・ヤングをモデルにしている)を、ジャズ・ミュージシャンのデクスター・ゴードンが見事に体現。彼は死ぬまで『ラウンド・ミッドナイト』はフィクションだと言い続けなければならなかった。アカデミー主演男優賞にノミネートされたゴードンの演技は、ベルトラン・タヴェルニエ監督の手堅い演出で補完され、映画にスロー・ブルースのスモーキーで気だるい空気をもたらしている。名ジャズ・プレイヤー、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターとゴードンのセッション、ニューヨークのクラブオーナー役でカメオ出演するマーティン・スコセッシも必見だ。(MR)

11位『歌え! ロレッタ 愛のために』(1980年)

ケンタッキー州ブッチャー・ホロウの貧しい家庭に育った歌手が、カントリー界の頂点に登りつめるまでをストレートに描いた本作で、カントリーの女王ロレッタ・リンを演じたシシー・スペイセクが、文句なしのアカデミー主演女優賞を受賞した。恋する少女から働きづめの母親、そして『カントリーの女王』へと変貌するリンの姿をリアルに演じきったスペイセクは、歌でも魅了してくれる。映画のサウンドトラックには、リンではなく彼女のヴォーカルが収録され、実際にカントリー・チャート第2位を獲得した。トミー・リー・ジョーンズからリヴォン・ヘルム、そしてビヴァリー・ダンジェロ(パッツィー・クライン役)に至るまで、すべての出演者が力演を見せ、マイケル・アプテッド監督が細部までビジュアルにこだわり、50年代後半から60年代前半のホンキートンク(安酒場)やカントリー&ウェスタンラジオ局に埃っぽい現実感を与えている。(DE)

10位『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』(1976年)

アカデミー賞の歴史でもまれに見る激戦となった年の作品賞の候補になっていなければ(ほかの候補作は、 『大統領の陰謀』『ネットワーク』『ロッキー』『タクシードライバー』)、ハル・アシュビー監督の『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』は、正当な評価を得ていたかもしれない。この素晴らしい(撮影監督の故ハスケル・ウェクスラーに二度目のアカデミー撮影賞をもたらした)ウディ・ガスリーの伝記映画は、ガスリーと、彼に音楽を与え、そして奪った荒廃した土地との関係を深く描いている。大恐慌の最中を舞台に、映画はダストボウル時代のオクラホマの家から肥沃な約束の地カルフォルニアを目指し西へ移動するガスリー(デビッド・キャラダイン)の姿を追う。いかにも70年代の映画のヒーローらしい、キャラダインが演じるガスリーは、不完全で、頑固で、不可解な人物だが、理解したいと切望された国家の正義と救済の強力なシンボルだ。(ST)

9位『アマデウス』(1984年)

トニー賞を受賞したピーター・シェーファーの戯曲が原作のこの豪華な時代劇は、18世紀の作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハルス)とアントニオ・サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)の間にあったとされるライバル関係を、男同士の競争と天才の謎を描いた素晴らしくおもしろいドラマへと膨らませる。回想を通して語られるこの映画で、年老いたサリエリは、才能あるモーツアルトの出現で彼が築いてきたものが消えてしまい、嫉妬と復讐に走る自分の悲しい人生を嘆く。「MTV全盛の時代に、3時間のクラシック音楽の映画を作ったんだ。長い名前とカツラとコスチュームが出てくるね」と、ミロス・フォアマン監督は、『アマデウス』の上映に踏み切るリスクについて述懐しているが、その成功(作品賞を含む8つのオスカー)は、映画のテーマ――とりわけ、誰もが持ち、サリエリのようにさいなまれる、自分はほかの誰かの壮大な物語の脇役にすぎないという疑念――が時代を越えたものであることを証明している。(TG)

8位『8 Mile』(2002年)

デトロイトの売れないラッパー、マーシャル・マザーズの半生に着想を得た『8 Mile』は、初主演作で自身の姿を演じるエミネムがウィービングとダッキングを繰り返す、21世紀の『ロッキー』だ。しかし、伝記的な詳細を気にするのは無意味だ。重要なのは、彼の音楽を動かすむき出しの危うさと鋭い率直さが、好戦的なB・ラビット(ブルーカラーの白人)としてのエミネムの自然な演技を形成していることだ(映画は『ザ・マーシャル・マザーズ・LP』ほど衝撃的ではないが、ブレイク寸前の悩める若き才能のおびえた虚勢をアルバムと共有している)。『L.A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソンが監督した『8 Mile』には、ハリウッド映画の夢のような、お決まりのハッピーエンドは用意されていないが、口コミでヒットした。エミネム演じる鋼の意思を持つ負け犬は、ついに大きなラップバトルで勝利するが、勝利を味わったのもつかの間、すぐに自動車工場に次のシフトを入れに行く。――映画における労働者階級のヒーローの低い期待値にふさわしい描写だ。(TG)

7位『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)

このジョニー・キャッシュの伝記映画には、二通りの見方がある。ひとつは、偉大なミュージシャンの幼少期の出来事、ひらめきの瞬間、そして、成功と挫折(そして復活)の軌跡を寄せ集めた万人受けする映像集として。そして、もうひとつは、このジャンルの本当の旗手として。ジェームズ・マンゴールド監督によるこの伝記映画が成功につづく道を辿った主な理由は、キャッシュとジューン・カーターの公私にわたる関係を中心に描いたストーリーと、完璧なふたりのキャスティングにある。陰気で自分に正直なホアキン・フェニックスと明るくてエネルギッシュなリース・ウィザースプーンは、どう考えても奇妙なカップルだが、磁石のS極とN極のようなふたりの相性は、ステージでの遊び心に溢れた(お互いの役回りを見事に演じている)デュエットとステージを降りたあとの緊張した関係に説得力を与えている。(ST)

6位『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)

N.W.A.の残されたメンバーが製作した『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、ヒップホップの先駆者たちの公認の伝記だ。この映画の一番の欠点は、ドクター・ドレーとアイス・キューブが自分たちの重要性を示す輝かしい記念碑にしてしまったことだが、それは同時に、長所でもある。音楽業界で権力を持つ白人の管理下で働かされ、多くの時間を奪われるスラム街の黒人男性たちにとって、30年近くかけて自分たちの伝説を映画化する立場になったことは、勝利を意味するのだ。映画はバンド内の軋轢、ファウスト的な駆け引きやN.W.A.を危険なバンドにしたツアーでの不品行を掘り下げているが、パフォーマンスのシーンはとても刺激的だ。イージー・Eがスタジオで声を出すところから『ファック・ザ・ポリス』を歌ったバンドがデトロイトで逮捕されるまで、この映画で彼らの奇跡的なバイタリティを再発見できる。(ST)

Translation by Naoko Nozawa

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