21位『戦場のピアニスト』(2002年)

コンサート・ピアニストとしてのウワディスワフ・シュピルマンの高い評価を知らなくても、ホロコースト時代にワルシャワのゲットーで生き延びた彼の悲惨な描写に心を動かされずにはいられないだろう。ロマン・ポランスキー監督の、2000年にこの世を去ったユダヤ人ミュージシャンの自伝に基づくこの映画で、強制収容所へ送られる家族を絶望のうちに見送り、栄養失調と肝機能障害による黄疸に震えながらピアニストとしての才能をナチの将校に命乞いするために使うなど、何年にも及ぶ過酷な状況の中でも芸術家であり続けようとしたポーランドの作曲家を、エイドリアン・ブロディが体現する。シュピルマンが乗り移ったかのようなブロディの演技は、彼に2003年のアカデミー主演男優賞をもたらした。『戦場のピアニスト』に実際の演奏はあまり出てこないが、間違いなく史上最高のクラシック音楽映画に数えられる一本だ。(MR)

20位『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』(2014年)

この、2014年に公開され興業的に失敗したジェームス・ブラウンの伝記映画は、ミスター・ダイナマイトを演じたチャドウィック・ボーズマンの素晴らしい演技だけでも再見する価値がある。俳優がブラウンの真似をしていることなど忘れてしまえ。彼は、ブラウンの気取った歩き方、鋼のような自信、そしてこの世のものとは思えないセクシーさを完璧に捉え、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』のすべてのシーンに感動をもたらす。この伝説のアーティストがステージの上にいないときでさえも。テイト・テイラー監督の『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』は、ブラウンの物語を大胆に入れ替え、時系列に追うのではなく、テーマをつなげることで80年代から60年代、30年代にまで飛ぶ。そのプロセスによって、本作は、ブラウンがどの年代よりも大きくて、どの世代よりも偉大な、ひとつの肩書では括れない『the HardestWorking Man in Show Business』(ショービジネス界一の働き者)であったと主張する。(TG)

19位『ラ★バンバ』(1987年)

リッチー・ヴァレンス役のルー・ダイアモンド・フィリップスと、不運のロッカーの異父兄でトラブルメーカーのボブ役のイーサイ・モラレスによる素晴らしい演技に支えられ、『ラ★バンバ』は、思いがけずスーパースターになった高校生が、音楽界を永遠に変えてしまった悲劇の飛行機事故の犠牲となって17歳でその生涯を閉じるまでの最後の8カ月を丹念に描く。『ラ★バンバ』は、夭折したロッカーとしてヴァレンスをクリーンに描くだけではなく、50年代後半のロサンゼルスに浸透していた人種間の対立やラテン系コミュニティの日々の生活との戦いにも取り組んでいる。しかし、本質的には、この映画はヴァレンスがポップ・ミュージックに与え続けている影響を知る素晴らしい形見であり、『ラ★バンバ』のおかげで、ロス・ロボスがカヴァーした彼の代表曲は全米1位を獲得した。(DK)

18位『ラストデイズ』(2005年)

カート・コバーンは、「徐々に色あせていくなら、いっそ燃え尽きたほうがいい」と言い残して死んだが、ガス・ヴァン・サント監督の『ラストデイズ』の中心となる、あからさまなコバーンのドッペルゲンガーは、あまりに色あせていて、ほとんど透明だ。ワシントン州の森にある誰もいない大きな家の中を歩き回り、金やドラッグをせびる時以外は彼に目もくれない取り巻きたちに囲まれた、マイケル・ピット演じるブレイクは、自ら命を絶とうとしている男というよりも、既に死んでいて、体が追いついてくるのを待っている男の魂のように見える。コロンバインの大殺戮を描いた前作『エレファント』と同様、あるロックスターが自殺するまでを描くフィクションは、説明の代わりに曖昧さを提示する。伝記映画のお約束である細かな説明や納得できる根拠への挑戦だ。コバーンの歌詞のように不可解で断片的だが、しばらく霧を焼き払ったカタルシスを呼ぶ怒りは込められていない。(SA)

17位『TINA ティナ』(1993年)

残念ながら、ブライアン・ギブソン監督によるティナ・ターナーのベストセラー自伝の映画化で最も記憶に残るのは、ドメスティック・バイオレンスの生々しく猥褻な描写だ。しかし、お互いの確かな信頼関係がアイクの虐待によって裏切られていく様を見せる、序盤のローレンス・フィッシュバーンのアイク・ターナーとアンジェラ・バセットのティナのさりげない(アカデミー主演男優賞と女優賞のノミネートにふさわしい)シーンは見逃せない。映画を通して、『プラウド・メアリー』を歌いながらステージを闊歩したり、仏教に改宗して「オーム」と唱えたりするティナ・ターナーの意思を、バセットは巧みに体現している。(MR)

16位『コントロール』(2007年)

アントン・コービンは、人生の大半をロックスターとの交流に費やしてきた。これまでに撮影したアーティストは、U2からデペッシュ・モード、トム・ウェイツまで、枚挙にいとまがない。なので、彼が監督デビュー作で、ひとりの歌手の映画を撮ったのは、驚くことではない。『コントロール』が描く、ジョイ・ディヴィジョンのフロントマン、イアン・カーティス(サム・ライリー)は、23歳で自殺する憂鬱な若者だ。彼の短い人生について回った不運についての幻想を排除することで、この一切の無駄を省いたドラマにペーソスを与え、典型的な成功と転落を描いた伝記になることを避けている。ライリーは、カーティスをひどいエゴイストとしてではなく、むしろ、痛みを美しい音楽に変えた深く悩める魂として演じている。その痛みが彼を破壊しつくしてしまう前に。ジョイ・ディヴィジョンのアルバムと同様、『コントロール』は素晴らしく、率直に言って暗い。(TG)

15位『ザ・ジャクソンズ:アメリカン・ドリーム』(日本未公開)(1992年)

キャサリン・ジャクソンが1990年に発表した自伝『マイ・ファミリー』におおよそ基づくこのジャクソン兄弟の伝記映画は、チャートの首位を走り続けた兄弟の栄光を、初期の『ABC』時代から1984年の『ヴィクトリー』ツアーまで、ソロ活動でスーパースターとなったマイケルが束の間まともな気分を味わおうとする様を交えて描いている。アメリカ一有名な音楽一家の分析が安っぽくなるのは避けられず、また、今となっては、『スリラー』をヒットさせた彼に終生付きまとった疑惑のレンズを通してこの映画を観ざるを得ない。しかし、再現ドラマに散りばめられたバンドの本物のクリップは、この映画をポップス界のファースト・ファミリーの感動的な肖像たらしめている。(JN)

14位『恋するリベラーチェ』(2013年)

スティーブン・ソダーバーグの映画製作『引退』後初のプロジェクトとなる、HBOテレビ製作の伝記映画『恋するリベラーチェ』は、リベラーチェのベールに包まれた生活の全貌の細部に、ハリウッド映画よりも踏み込んだ作品だ。リベラーチェ役のマイケル・ダグラスが、若く美しい男性の人生を奪う吸血鬼のようなナルシストという最低な部分と、スポットライトを浴びて光輝くセンセーショナルなパフォーマーという最高の部分を演じ分け、ラスベガスの伝説への共感と反発を自在に操る。リベラーチェと彼が誘惑し捨てた恋人、スコット・ソーソン(マット・デイモン)との関係が彼を失墜させるが、ダグラスのカリスマ性ゆえ彼を憎みきれない。ソダーバーグはリベラーチェを、名声と虚構によって孤立し、自ら作り上げた金メッキのカゴに閉じ込められたまま夢を実現した悲劇の人物として描いている。(ST)

Translation by Naoko Nozawa

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