『Somebody’s Somebody』
Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images アルバム『イマンシペイション』(1996)より
このクワイエット・ストーム(70年代中頃から90年代初頭にかけて人気を獲得したブラックミュージックのジャンルの一つ)のスロージャムは、屋外で録音された雨音から始まる。プリンスの全作品の中で最もなめらかな曲だ。よりソフトなソウルの雰囲気を出すため、プリンスはピーチズ&ハーブの『恋の仲直り』を真似てシタールの音色を模したサウンドを乗せた。曲中でプリンスは、夜中の2時に落ち着かない気持ちで道ならぬ恋の相手とのあいびきを待ち望み、別の形のイマンシペイション(解放)を欲している。つまり、ここではレコード会社からではなく(ワーナー・ブラザース・レコードとの契約からは、この年の初めに逃れることができた)愛のない関係からの解放を求めているのだ。
『I Like It There』
Photo by Tim Mosenfelder/Getty Images アルバム『カオス・アンド・ディスオーダー』(1996)より
ギターに重きを置いたアルバム『カオス・アンド・ディスオーダー』の聴きごたえのあるこのトラックから、当時のプリンスは間違いなくポップ・ロックの気分だったことが分かる。多作なミュージシャンである彼がどれほど新しいものを生み出せるのか、当時は疑問に思われても無理はなかった。アルバムのライナーノートには、『カオス・アンド・ディスオーダー』は、「ワーナー・ブラザース・レコードから(プリンス名義でリリースする)最後のオリジナルアルバム」と記されていた。メジャーレーベルから抜け出す前の最後のアルバム(現在では絶版となっている)の『I Like It There』などの優れた曲を通し、プリンスがダンスを中心とした曲作りの大家であることに加えて、カーズのリック・オケイセックのようなミュージシャン同様に、パンチのあるギターサウンドを作り上げる力を失っていないことが証明された。
『Dinner With Delores』
Photo by Paul Bergen/Redferns アルバム『カオス・アンド・ディスオーダー』(1996)より
"The Artist 4merly Known as Prince(かつてプリンスと呼ばれたアーティスト)"の18枚目のスタジオ・アルバムからの唯一のシングル、『Dinner With Delores』は、『カオス・アンド・ディスオーダー』の特設サイトからオンラインでリリースされた、プリンスのデジタルデビュー曲だ。レーガン時代のカレッジ・ロック(オルタナティヴ・ロック)に加勢できるほどの騒々しいギターは、プリンスの1985年頃を彷彿とさせるが、それも『Dinner With Delores』の魅力的な上品ぶったひねりがあってこそだ。淑女とは名ばかりの淫乱なドローレスは、信じられないことにセックスに熱心なプリンスをなえさせる。曲の最後でプリンスはこう歌っている。“まったく、ドローレス、誰か別の相手を当たってくれ”この曲は、プリンス愛好家の間で人気が高い。クエストラブは、イギリスのガーディアン紙にこう語った。「『カオス・アンド・ディスオーダー』のエンディングは最高だ。ポストモダンの黒人ポップスの歴史の幕開けだ」