ボブ・ディラン、1970年代以降の名曲ベスト10

第6位:『運命のひとひねり(Simple Twist of Fate)』


『血の轍』がリリースされたのは、ボブ・ディランの結婚が破綻した頃だったので、妻サラとの別れの曲がいくつも収録されているだろうと多くの人は想像した。「『血の轍』を聴くと、両親のことが歌われている(ことが分かる)」とジェイコブ・ディランは語っている。全ての曲が、というわけではない。ディランの歌詞ノートを見ると、悲しげな『運命のひとひねり』の元のタイトルは、『4th Street Affair(西4丁目の出来事)』だった。そしてこの曲は、長年噂されていたとおり、1960年代前半のディランとスーズ・ロトロとの関係を回想したものだった。ロトロは、グリニッジ・ヴィレッジの西4丁目でディランと同棲していたが、イタリア留学を期にディランに別れを告げた。歌詞の"波止場"の意味は、これで解明された。

この曲は、ディランが2014年のツアーで歌った、1997年より前の数少ない曲の一つだ。ディランは、いまだにこの曲の歌詞の微調整をしている。2014年のほとんどのライヴで、こう歌っている。「1958年に会えていればよかった。そうすれば運命のいたずらは避けられただろう」ディランがプロのミュージシャンになってから会った人とは、彼が有名であることが災いし、関係が壊れる運命にある、と言っているようだ。



第5位:『ノット・ダーク・イェット(Not Dark Yet)』


『タイム・アウト・オブ・マインド』のレコーディングをしていた時、ディランはまだ56歳だったが、この時期、彼の人生にはさまざまなことが起き、死と隣り合わせの老人のような気持ちになっていた。後悔や喪失感、死のイメージが頭から離れなかった。アルバムの中で最も険しい6分半の『ノット・ダーク・イェット』は、ディランの曲の中でも間違いなく最も重苦しく、感動的な曲の一つだ。ディランはこう歌っている。「俺はここで生まれた。望んではいないが、ここで死ぬ。俺は動いているように見えるかもしれないが、じっと立っている。体中の神経が空洞で、まひしている。何から逃れるためにここに来たのかさえもう思い出せない」



第4位:『シングス・ハヴ・チェンジド(Things Have Changed)』


2000年のディランのキャリアは、かなり好調だった。7年ぶりのオリジナル・アルバム『タイム・アウト・オブ・マインド』はグラミー賞年間最優秀アルバム賞を受賞し、ネヴァー・エンディング・ツアーのライヴはいずれも実に素晴らしかった。映画監督のカーティス・ハンソンから『ワンダー・ボーイズ』への挿入歌の依頼があったのは、ディランがライヴのエネルギーを保ったままスタジオに戻った時だった。映画は、(マイケル・ダグラス演じる)大学教授が、問題を抱えた学生の波乱万丈に巻き込まれる、という内容だ。出来上がった曲は、映画の雰囲気を完璧に捉え、アカデミー歌曲賞に選ばれた。2014年のツアーで、この曲は全てのライヴのオープニングを飾った。それは、昔のヒット曲を期待して来た観衆への、「昔は気にしたが、今は昔とは違う」という明らかなメッセージだった。

Translation by Satoko Cho

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