オバマが語る最後の挑戦(前編):気候変動に立ち向かう

By JEFF GOODELL
Photograph by Mark Seliger

オバマの環境政策はほぼすべて、化石燃料の需要を減らすことに焦点を当ててきた。供給を抑える意欲は、それに比べてはるかに小さい。メキシコ湾での原油生産を拡大し、天然ガス採取の手段として水圧破砕法(フラッキング)を認め、ワイオミング州における石炭鉱業権を格安価格で販売、物議をかもすキーストーン・パイプライン計画も完全にはつぶしていない。これは、米国経済を化石燃料離れさせるには、供給を絞るより需要を減らした方が効果的だという信念に基づいている。結局のところ、グローバルな市場では、他のどこからでも調達可能だからだ。今回の周遊が始まるわずか1カ月前、米内務省はシェルに対し、チュクチ海のアラスカ沿岸から約120キロ沖で試掘を行うことを承認した。ホワイトハウス高官は、試掘を承認してもオバマ大統領が気候変動を真剣に考えていない証拠とは言えないとし、シェルに採掘権を売ったのはブッシュ政権であること、北極圏には既に約30の試掘井があること、内務省は新たな安全規制や環境保護の取り組みを強力に推進した後にこの1件のみを承認したこと、そしてすべてがいい方向に進めば、シェルは新たな石油採掘を少なくとも10年は行わないことを指摘した。それでも気候変動活動家は、大統領は偽善者だとののしる。アル・ゴア元副大統領は北極圏での採掘を「狂気の沙汰」と非難した。

コツェブーへのフライトに際して、空軍部隊は大統領専用機747をアンカレッジの飛行場に停め、一行はそこで小型の757に乗り換えた(大統領が乗る飛行機はすべてエアフォースワンと呼ばれるのだが、スタッフはこの757を特にミニ・エアフォースワンと呼んでいる)。ディーズや国家安全保障問題担当大統領補佐官のスーザン・ライスをはじめ、政府高官数名も同行した。

ライスの帯同は、北極圏の急速な溶融は安全保障問題にもつながっていることを物語っている。氷が溶けるにつれ、全く新しい海が現れ始めている。そこには、世界の確認埋蔵量の30%の天然ガス、13%の石油が眠るとされている。ロシアと違い、アメリカはこの海域で作業を行うための設備に恵まれておらず、保有する砕氷船は2隻のみだ(ロシアは40隻)。その上、北極圏に目をつけているのはロシアだけではない。コツェブーへ向かう途中、飛行機の下の公海には5隻の中国軍艦が確認できた。偶然なのか示威行動なのか? そして東方では、カナダ軍が大規模な年次軍事演習オペレーション・ナヌークを終えたばかりだった。カナダ政府によると、この演習は「最北地域への統治権を明示する」ためのものだった。

北極圏に入る前、飛行機は、サケ漁が盛んなブリストル湾岸の小さな町ディリンガムに着陸した。大統領を運ぶ車列は、まっすぐ海岸へと向かった。そこでは、アラスカ先住民族の女性2人が網で捕まえた銀鮭を手に待っていた。再びソーシャルメディア用の写真を撮る絶好のチャンスが訪れ、同時にアラスカ経済にとってサケ漁がいかに重要性かを語る好機となった(しかし、物議をかもしているペブル鉱山には触れなかった。この巨大金銅鉱山はアラスカ州の裁判所で建設許可を求めているが、建設されればサケ漁場の上流域は破壊される)。今回の旅で最も笑える瞬間がここで訪れた。オレンジのゴム手袋をはめたオバマが、女性から手渡された60センチほどのサケを掲げた。するとオスらしく活きのいいサケは、彼の靴に精液をひっかけた。オバマは笑い、女性に小声で何かを告げられた。すると再び笑い、皆に聞こえるように大きな声で言った。「鮭もあなたに会えて嬉しかったんでしょう、だって」
Translation by Takamune Murase

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