オバマが語る最後の挑戦(前編):気候変動に立ち向かう

By JEFF GOODELL
Photograph by Mark Seliger

この日の明るい雰囲気は、深刻で切迫したメッセージと好対照を成していた。「気候変動はもはや遠い先の問題ではありません。今ここで起きている問題なのです」。オバマは訪問初日にアンカレッジで開かれた北極に関する国際会議でこう語った。これまでの公式発言にはなかった厳しい言葉で、二酸化炭素の削減努力を加速しなければ「子供たちは修復不可能な地球で生きていくことになります。国は海面下に沈み、都市は荒廃し、田畑の作物は育たなくなるでしょう」と警告した。焦燥感が見てとれた。「我々の取り組みのスピードは不十分です」。このフレーズは、24分間のスピーチの間に4回も繰り返された(のちに側近のひとりに聞いた話では、この繰り返しはアドリブだった)。
このアラスカ訪問を皮切りに、オバマは任期中最後となりそうな大仕事にとりかかった。2015年の年末にパリで開かれる気候変動に関する国際会議(2015年11月30日〜12月11日まで開催された、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で成果を残すため、議論に弾みをつけることだ。「大統領はこの目標を達成することに完全に集中している」。ある側近がアラスカでこう教えてくれた。医療保険制度と経済というふたつの優先事項に加え、同性婚や移民などの重要問題でもレガシー(遺産)を残したオバマにとって、2016年の大統領選をめぐる騒動の中でひっそり任期を終える前にパリで交渉をまとめることができれば、鮮やかな有終の美となる。「気候変動に対する世界的な取り組みへの本気度では、誰もオバマにかなわない」。オバマの元上級顧問で、現在はヒラリー・クリントンの選挙活動に携わっているジョン・ポデスタは言う(最近大統領執務室を訪問した人によると、オバマは「世界中の目をパリに集めようとしている」と語ったという)。

政策面では、オバマはアラスカに大した手みやげを持参できなかった。北米最高峰の正式呼称を先住民がつけた名前であるデナリに戻し、湾岸警備隊の新しい砕氷船の建造を急がせ、アラスカ先住民族が住む村が高台へ移動するにあたり、数百万ドルを提供した。しかし、これらはジェスチャーにすぎず、炎天下のアイスキャンディのごとく州が溶け始めたアラスカの問題の解決にはほとんど役立たない。結局のところ、今回の訪問は計算し尽くした用意周到なパフォーマンスにすぎなかった。そうだとすると、こんな疑問も浮かんでくる。溶けていく氷河の前で世界の危機を叫ぶ大統領を見て、アメリカの人々は関心を払うだろうか?

「私がこの旅をしたかった理由のひとつは、気候変動を人々にとってもう少し身近にするためであり、いつまでも後回しにできる遠い先の問題ではないということを明確に示すためだった」とオバマ。「今すぐに取りかかるべき問題だ」

そういったことを訴えるのに、アラスカ以上の場所はなかっただろう。気候の面では、化石燃料社会の暗部をくっきり映し出している。アラスカ州の気温は全米平均の2倍のペースで上昇しており、氷河は急速に後退している。アンカレッジ行きのデルタ航空の機長が言っていたほどだ。「左の窓をご覧ください。氷河がこうやって見られるのも今のうちでしょう!」。オバマが訪問したちょうど同じ週、アラスカ北部の海岸に3万5千頭ものセイウチが上陸しているのが観測された。獲物の狩りをする際、休憩場所になっていた海氷が溶けてなくなってしまったためだ。アラスカ湾では、科学者たちが水温が異常に高い海域の影響を調べている。カリフォルニア半島まで広がるこの海域は、温度分布図に表れる形から、いみじくもブロブ(ブヨブヨしたもの)と呼ばれている。だがその一方、アラスカ州は収入をほぼ全面的に化石燃料生産に頼っている。生産量は、原油安やノーススロープの油井、ガス井の枯渇によって急減している。2015年度、アラスカ州は37億ドルの歳入不足をどうにか穴埋めしなければならない。ビル・ウォーカー州知事は今回、オバマに同行する形でワシントンD.C.からアンカレッジまで飛んで来た。オバマの側近のひとりによると、ウォーカー州知事は歳入拡大および石油とガスの採掘のため、国有地をもっと解放してほしいと要請した。「アラスカはバナナ共和国(一次産品の輸出に頼る小国)だからね」。アラスカの環境団体クック・インレットキーパーのボブ・シャベルソン事務局長は言う。「この州は石油を掘るか、それとも死ぬかだ」
Translation by Takamune Murase

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