ワンダフル・クレイジー・ナイト
エルトン・ジョン | David Fricke / ユニバーサル
Rolling Stone Japan 編集部 | 2016/03/10 00:00
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70年代初期のワイルドな感覚を再現したアップテンポなアルバム
ジョンはここ数年、原点に戻ったアルバムを作ってきた。本作『ワンダフル・クレイジー・ナイト』は、その最新作となる。レオン・ラッセルとコラボレーションした2010年のアルバム『ザ・ユニオン』、2013年リリースの『ザ・ダイヴィング・ボード』に続いて、共同プロデュースを務めるのはT・ボーン・バーネット。前作『ザ・ダイヴィング・ボード』は憂いに満ちたバラードが多かったが、本作は初期のアルバムに近く、揺れ動く感情を描いたアーシーな雰囲気漂う作品となっている。
『イン・ザ・ネイム・オブ・ユー』は、ブルージーなピアノのリフに合わせてゆっくり進行する曲で、古いつき合いのギタリストであるデイヴィー・ジョンストーンもジョンのピアノに歩調を合わせている。『クロー・ハマー』はそんなジョンストーンがタイトルのクロー・ハマー(釘抜き付きのハンマー)のごとく割って入って来る楽曲。彼が使用するザ・バーズのような12弦ギターは、湿った感じになりがちの曲を明るくするのに役立った。『ア・グッド・ハート』では、ジョンとバーネットがトーピン作の懇願するような歌詞にビートルズ的捻りを加える。ホーンを従えたサザンソウルになっており、『アビイ・ロード』からの1曲と言ってもいいくらいだ。
『ブルー・ワンダフル』『ルッキング・アップ』『タンバリン』といった楽曲で、地上で楽園を維持するのがいかに難しいか表現するジョン。これらは彼のグレイテストヒッツに匹敵する内容だ。特に『タンバリン』は、『黄昏のレンガ路』に収録されていてもおかしくはない。
本作の音楽には熟練の歩みと重みが加わっている。ジョンのヴォーカル・パフォーマンスのおかげもあって、彼の最も優れたアルバムの一枚に仕上がった。それでは総括。“本作は、価値ある内容だ”。