細美武士インタヴュー(前編):「子供の頃の傷は乗り越えられない、生きていかなきゃいけない」

By Joe Yokomizo 2015/08月号 P27〜31 |
ローリングストーン日本版2015年8月号掲載(Photo by Keibun Miyamoto)

─バンドインタヴューで、「クズにしかわかんねえ言葉がある」って言ってたでしょ?細美さんの音楽を聴いたり、話を聞いたりしていると、クズじゃなきゃ救えないヤツらもいて。それがガキの頃に読んだ『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著、1951年)の、読んだことありますか?

もちろん読んでるよ。あの時代のバイブルだよね

─俺はあの小説が大好きで。『ライ麦畑』の主人公、ホールデン・コールフィールドは金や欲にまみれた大人たちを「インチキ野郎」と蔑んでる。そうして世の中に背を向けて生きているホールデンに、ある時、妹のフィービーが聞くわけです。「将来何になりたいか」って。そしたら「ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ」と答える。ライ麦畑は汚れてない世界の比喩で。ライ麦畑で遊んでいる子供たちがいて、近くの崖っぷちに自分は立っている。子供たちがその崖から落ちそうになったらキャッチするんだ、と。僕は、ホールデンと細美さんがダブるんです。ホールデンほどイノセントじゃないかもしれないけれど、タトゥーの入った「The Catcher in the Rye」とでもいうか。

『ライ麦畑でつかまえて』は、理想とかじゃなくて、甘えを描いたものだと思う。俺はあの主人公ほど甘くはないから。気持ちはすごくわかるよ。それに、よくこれだけ思春期の精神をありありと描けるなっていう所には感動するけど、主人公が好きかっていったら、俺は大嫌いだね。弱えなと思う。俺はあんなセンチメンタルじゃない。共感はしきれないんだよね。

─確かにホールデンはイノセントといえばイノセントだけど、ピーターパンシンドロームっていうかね。現実から逃げてる感じもあるし。

全部人のせいにするじゃん? 大人のふりしてバーへ行くシーンとか耐えられないよね。でも美しい表現がすごくいっぱいあって。水たまりの中の油の虹とかさ。ああいうのはすごい好きなの。

─でも、俺はホールデンと細美さんがかぶるところもあると思う。

誰だってあるでしょ。みんなあの感覚はあると思う。寮で同室のヤツがいて、自分はそいつに勝てないのに自己評価だけは上だとかさ。でもやっぱり甘ったれの物語だなと思って読んでるね。

─なるほどね。

だって、あいつは別にほんとうの意味ではなんも困ってないじゃん。たいした苦境にいるわけでもねぇし。もっと酷いことをされてるヤツが実際にはたくさんいる。そういう人とかと比べたら、ただの甘えでしかないと思う。俺だって強くはないけど、あの物語の主人公ほど弱くはないね。だせぇなと思う。

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