2015年注目すべき秀逸アルバム15選 

スタンリー・カウエル 『ジューンティース』
Stanley Cowell/Juneteenth
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ジャズサックス奏者のカマシ・ワシントンが、爆発的なツアーにより賞賛をほしいままにしていたこの1年、ひとりのジャズ・アーティストが、いくぶん控えめだが、揺るぎない感動をもたらす、自身の体験にもとづいた叙事詩をリリースしている。71年の伝説、ストラタ・イースト・レーベルの共同設立者としても有名な74歳のピアノの達人、スタンリー・カウエルのソロ・アルバム『ジューンティース』は、米国の奴隷制度廃止150周年を記念した一種のアナログ・リミックスだ。アルバイム・タイトルでもある、30分にわたる組曲と、それに伴う曲の数々には、印象的な即興のコーダ、『ディキシー』と『リパブリック賛歌』から『奇妙な果実』までの米国歌曲のDNAがかき混ぜられている。アルバムは、サロン・スタイルのブルースあり、コンサート・ホール向けの現代音楽あり、教会で演奏するのにふさわしいゴスペルありだ。これらの曲を通じて、これまでの戦いとやっと手に入れた社会的地位の向上を、印象主義的なポートレートにまとめ、奴隷制度と公民権運動の悲劇の大河物語を再現しているといっても過言ではない。
− Hank Shteamer

ライアン・カルウェル 『フラットランズ』
Ryan Culwell/Flatlands
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アコースティックで、印象深く、博識な、ライアン・カルウェルの『フラットランズ』は、ジェイソン・イズベルの『サウスイースタン』とジェームス・マクマーティの『コンプリケイテッド・ゲーム』のちょうど中間ぐらいに位置し、鍛え抜かれた知性を持つカントリー・ミュージックで、故郷への愛と、故郷を離れたい願望のはざまに揺れる心理的葛藤を描いている。カルウェルの場合、テキサス州パンハンドル地方がその故郷で、広大な小麦畑と油田を見ながら育った。彼の生まれ育った環境に似せて(カルウェルは現在ナッシュヴィルに住んでいる)、『フラットランズ』は荒涼とした場所として描かれ、多くの傑出した中の1曲『ダークネス』で「世界中が真っ暗になる」とうめく。不気味で敵意をむき出しにした『アイ・シンク・アイル・ビー・ゼア・ゴッド』では、悪魔を背負った横暴な夫となり、その妻への計画をこう歌っている。「彼女を地べたに寝かせて、9ヶ月かそこら待つ」。アルバムの最初の曲である『アマリロ』でカルウェルは引退を賛美している。彼がその場にとどまるべきなのか、去るべきなのか?それは彼にさえ分からないように見えるが、彼の曲を聞いてそれを探ってみるのは楽しい。
− Joseph Hudak

ハマ 『トロディ』
Hama/Torodi
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ティナリウェンをはじめとするサハラ沙漠のロック・バンドによって世界的に有名になった、ソウルフルで、循環するエレクトリック・ブルースのメロディは、ナイジェリア人キーボード奏者、ハマのゴージャスなソロ・シンセサイザーによる作曲で、メランコリックなロボット・ダンス・ミュージックへと変化している。年代物のヤマハのキーボードの浮き立ちながら揺れ動くような音色と、打ち込みだが、部分的にしかアタマを正確に揃えていないビートで、彼はメモリ・カードから現地の携帯ユーザーに爆発的に広まった。ミニマルだが決して貧弱ではないし、そのメロディに民族音楽の心地良い抑揚と燦めきを湛えつつも、彼のマシンは、クラフトワークやニール・ヤングのアルバム『トランス』に似た、独特の人間味を露わにする。ブログ『ノー・フィアー・オブ・ポップ』のインタビュアーの「未来派ですか?」との問いに彼はこう答えている。「いや、私の音楽は100%伝統音楽なんだ」
− Christopher R. Weingarten

Translation by Kise Imai

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