アデルとダフ屋の総力戦、その内幕

アデルのツアーは前代未聞だ。再販システムに対抗しながら、ここまで多くのチケットをこれほど早く売り上げたスターはほとんどいない。彼女の姿勢は、2006年のペティのそれに通じるものがある。Songkickは、アーティストがファンクラブや自身のウェブサイトを通じてチケット販売するためのサポートを担うイギリスの企業だ。アデルのスタッフ陣はこのSongkickと組むことで、ヨーロッパ公演のチケット総数の40%、北米公演は8%またはそれ以上を確保したと、ニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

アデルのチームは、購入者リストを調べ、仲介業者やダフ屋と見られる人には払い戻しを行った。「こうすることが通例。やや好戦的と言えるかもしれない。」と、レッド・ライト・マネージメントの幹部で、トム・ウェイツのツアー演出家であるスチュワート・ロスは、ダフ屋に反対する立場としてこう話す。「アデルのスタッフたちはチケット購入者に連絡して、「あなたの注文をキャンセルします。あなたが多重オーダーしたため、私たちの利用規約に反しました」と言っているんだ。チケットを買った人は、購入後に「すみません、あなたにお渡しできるチケットはありません」と言われるんだよ」。

余っているチケットはもちろん、TicketmasterやAXS、その他のチケットセールス・サイトに流れ、そこで販売される。アデルは1週間に300万枚以上のアルバムを売り上げることができる、世界で最もビッグなポップスターの一人であるにも関わらず、このようなチケットの販売方法についてコントロールできる部分はほんの少しに限られている。「画期的な解決策はないんだ」と、See Ticketsのウィルムシャーストは語る。「会場には様々な契約上の関係があり複雑だ。厄介な世界なんだよ」。

再販業者らは、アデルの戦略について、チケットセールスにおける自由市場を操作しようとしていることが問題だと指摘する。需要が多ければ供給は減り、価格は高騰する。アデルのチームが、どんなに50ドル〜150ドルという定価のままの価格範囲を順守しようともだ。「そのような目標が市場のなかで達成されることはないだろう」と、StubHub社長のスコット・カトラーは語る。StubHubは、今回のツアーでアデルとパートナー契約を結ぶため何週間にも渡って交渉したが、「市場での力関係」の点で合意に至らなかった。

公演回数を大幅に増やせばこの問題を解消できるが、アデルはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン、ロサンゼルスのステイプルズ・センターでの各6公演を含め、すでに世界で105公演が決定している。アデルの代理人、そしてライブ・ネイション、AEG、シカゴのJAMのプロモーターらは、この記事に関してコメントを寄せていないが、コンサート・ビジネスに携わる人の多くが、アデルはダフ屋に対抗するために出来る限りのことをしていると話す。

「信じられないくらい重要なことだ」とロスは語る。「彼女はチケットを、ファンにとって(ある意味)道徳的でフェアな金額にしようとしているんだ」

Translation by Sayaka Honma

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