ショーン・ペンが語る:麻薬王エル・チャポとの会談(前編)

微笑みの下の表情から、彼が疑いを持っていないことがわかる。彼の顔を見て、私の脳裏には一つの質問が浮かぶ。彼は聞いている間に話しているのである。
人の目から疑いをすべて取り除くものは何なのか? 力か? 賞賛すべき明晰さか? もしくは無情さ? 無情さは……善悪の判断に関する私の条件が、やむなく彼の中に見出そうとしているものではないか? 無情さは、極端な楽観主義者にならずに、ここで彼の中に見出さなくてはいけないと私が思っているものではないのか? 私は弁解しているのか? みんな、私は一生懸命試みたのだ。本当だ。私は、信じられないほど多くの命が麻薬の世界で失われ、その至るところに荒廃が存在していることを何度も自分に思い出させた。「私は自分自身を尼僧のように描きたくない」とエル・チャポは言う。そういう描写は私も思いつかなかった。素朴な場所からきた素朴な男は、彼の息子たちからの素朴な愛情を受け、彼も素朴な愛情を息子たちに与えていた。当初、この男は巨大かつ凶悪な伝説の狼として、私を驚かせることはなかった。彼の存在は文化的な複雑性と文脈、生存に重きをおく者と資本主義者、農民とテクノクラート、銀と評される賢い起業家とその他の鉛のような起業家に関わる問題を想起させた。

召使がテキーラの瓶を持ってくる。エル・チャポは私たち全員のグラスにスリーフィンガー分を注ぐ。乾杯のとき、彼はケイトを見る。「私は普段は飲まない」と彼は言う。「しかしあなたと一緒に飲みたい」。グラスをあげると、私は礼儀正しく一口飲む。彼は私にアメリカで自分が有名かどうか尋ねる。「ああ、有名だ」。私は言い、メキシコに出発する前夜にフュージョン・チャンネルが『Chasing El Chapo(エル・チャポを終え)』の特別版を繰り返し放送しているのを見たことを教える。彼はその不条理さに喜んだようだ。彼とその仲間たちがクスクスと笑っているとき、私は空を見上げ、もしこの上空に武装したドローンがいたらどんなにおかしいだろうかと思う。何も遮るものがない、屋外に私たちは座っているのだ。私はテキーラを飲み干す。ドローンは消え去る。

私はチャポとその仲間たちの落ち着きがもたらす安心感に屈服する。もし脅威があれば、彼らはそれを察知するであろうという感覚が広がる。何時間にもわたり私たちは飲み、食べ、そして話をする。彼は映画業界と、それがどう動いているのかに興味を持っている。彼は金銭的なリターンについては心を動かされない。損益計算書の優れた面は、リスクの否定的側面について彼を納得させない。彼は私たちに仕事をオイルビジネスに転換することを考えるように提案する。彼はエネルギー業界を目指しているが、彼の資金が不正なものであることが、彼の投資機会を制限していると語る。彼はメキシコ及び海外の、多くの腐敗した大企業の名前を挙げる(しかし記事には書かないように頼んだ)。彼は嬉しそうに軽蔑の念を込め、彼の資金を洗浄し、麻薬事業の利益の分け前を受け取っている企業の名前をいくつか指摘した。

後編へ続く


本国オリジナル記事は以下
El Chapo Speaks

Translation by Yoko Nagasaka

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