ジャニス・ジョプリンの人生を描いた新作ドキュメンタリー映画の内側に迫る

リサーチの過程で、バーグはディック・キャベットにインタビューした。彼は、ジョプリンとテレビ司会者とゲスト以上の関係にあったこと、つまり、公表されていない大勢の男と女の恋人のひとりであったことをほのめかしている。「彼女が選ぶのはたいてい男性でした」とバーグは語る。「でも、一線を越えると、彼女はそれで満足してしまうんです。彼女は愛を求めて続けていました。崇められ、優しくされて愛されたいと願っていた」バーグは1年半かけて、ジョプリンの死の直前まで恋人関係にあったデイヴィッド・ニーハウスを探し出した。ジョプリンが亡くなった夜、ニーハウスからのラヴレターがホテルのフロントに届いていた。「あの晩もし、ヘロインを打たなければ、彼女は手紙を受け取っていたのでしょうか」とバーグは語る。「とても悲しいことです」

ジョプリンの死について調査する過程で、スーツケースを持った“2人組のマフィア”がその晩ジョプリンの部屋から立ち去るところが目撃された、といった類の陰謀説をバーグは耳にした(が無視した)。「どれも『マフィアは反体制のミュージシャンを皆殺しにしようと目論んでいて、実行したっていう話ですよ』というものばかりでした」とバーグは首を振る。「すべて調査しましたが、馬鹿げた陰謀説でした」

『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』では、亡くなる直前までジョプリンが家族に宛てて書いた手紙が全編をとおして紹介される。バーグは手紙の使用する許可を得るだけでなく、手紙の朗読にショーン・マーシャルをキャスティングすることに成功した。「ショーンのインタビューを聞いたとき、ジャニスにそっくりで本当に驚きました」とバーグは語る。「感動しました。彼女の話し方はジャニスそのものでした。彼女はとてもやさしくて繊細な人です。ジャニスが経験したことを理解して、すぐにナレーションに慣れてくれました」

マーシャルはジョプリンの生涯に関してごく基本的な情報しか知らなかったが、意外にも多くの共通点があった。「南部の出身で、何人もの男性と浮名を流し、今の時代にロックをやってる女は自分だけだと感じていた。90年代の私にそっくりなんです。ギター1本抱え世界中を旅して回る女。そんな風に思われてることがすぐにわかりました。ジャニスが感じていた社会的重圧は想像できません」

マーシャルにとって、ジョプリンの手紙を朗読することは特にカタルシスだった。「私は20歳でニューヨークに出てきたので、彼女が家族の許容と承認を求めていることが手紙からわかりました」とマーシャルは語る。「私も『ソニック・ユースとツアーしたけど、気に入られちゃって!』なんて手紙を書いたことがありますから、共通点がありますよね。20代のころは死んでしまいたいってずっと思っていました。自分らしくあるために家族に許しを請わなくてはならない彼女の手紙を読むのは、自分の顔を叩かれてるみたいだった。最後の手紙は、小さな声で読まないといけませんでした。3回チャレンジしたけど、読もうとするたびに号泣してしまったから。ハードな体験でした」

「ジョプリンは男性上位の社会で時代の先端を行く女性でした」とバーグは語る。「女性は今も、思いどおりに行動し、家族を持ち、人々を幸せにし、裁きを受けないために戦っています。彼女は失敗することを常に恐れていました。私は、自分自身を探し続けるひとりの繊細な女性として彼女を捉えました。ショービズ界の女性は自分の生き方に責任を持っています。ですが、私たちは今でも、ジョプリンと同じたくさんのものを求めて戦っているのです」

Translation by Naoko Nozawa

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