ヒット・アンド・ラン フェーズ・ワン

 プリンスのニューアルバムは、「1999」や「レッツ・ゴー・クレイジー」といった楽曲にさりげなく触れながら開幕する。しかし本作は、これら80年代の名曲の焼き直しではない。休むことを知らない現在のプリンスが、全盛期の緻密なまでのファンキーさ、巧みな名人芸を新たな手法で再創造した作品だ。プリンスが、その音楽人生のなかで最も多くのゲストミュージシャンやヴォーカリストとコラボレーションしたアルバムでもある。なかでも目立っているのは、共同作曲者兼共同プロデューサーのジョシュア・ウェルトン。そして本作では1曲のみ参加の、サードアイガールだ。プリンスと彼女たちは、2014年の『アート・オフィシャル・エイジ』と『プレクトラムエレクトラム』でもともに活動している。

『ヒット・アンド・ラン フェーズ・ワン』は良いものもあればそうでないものもある。「フォールインラヴトゥナイト」や「エイント・アバウト・トゥ・ストップ」のようなダンス曲は威厳たっぷりだが、EDMふうの楽曲「エクシズ・フェイス」のように、実験的な作品は無理やりな感じする。また少々奇妙なのは、『アート・オフィシャル・エイジ』収録のバラード「ディス・クッド・ビー・アス」が、エレクトロアレンジを加えられたさえない楽曲「ディス・クッドBアス」になっていることだ。

「ハードロックラヴァー」では“シャーデーとベイビーフェイス/R&Bには存在場所がない”と歌う彼。しかし、R&Bのソフトで湿り気のある色気が、プリンスの音楽に温かみや弾力を与えているのは明らかだ。ただ、彼がもう少しリラックスして、流れに任せてくれたらいいのだが。

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