カントリー・ミュージックがクールだと思われる前から、ドン・ヘンリーはカントリーに取り組んでいた。イーグルスのメンバーとして歌い、ドラムを叩き、曲作りをする随分前のことだ。15年ぶりの彼のソロアルバム『カス・カウンティ』は、イースト・テキサスの平野にちなんで名づけられている。現在68歳のヘンリーは、農業、石油掘削機、そして南部のラジオがロックンロールの基になったブルース、ゴスペル、ホンキートンク・ミュージックをかけまくるなかで育った。労働者や失恋、老いの分別などを歌ったオリジナル11曲と、肥沃なカヴァー5曲を収録した本作で、ヘンリーはそういったルーツや理想などにふれていく。カヴァーには、1955年のルーヴィン・ブラザーズのヒット曲「ホエン・アイ・ストップ・ドリーミング」や70年のジェシ・ウィンチェスターの珠玉の名作「ザ・ブラン・ニュー・テネシー・ワルツ」、そしてジェシ・リー・キンケイドによる66年のシングル「シー・サング・ヒムズ・アウト・オブ・チューン」などが含まれる。

 アルバム全体が過去を振り返る内容だったなら、リスナーにとっても有益で楽しい作品になっただろう。しかしヘンリーは、穏やかだが挑戦的な“ピュア・カントリー・モダニズム”ともいえるアルバムを作り上げた。トム・ペティのバンド、ザ・ハートブレイカーズのオリジナルドラマーであるスタン・リンチによって作曲&プロデュースされた『カス・カウンティ』は、細部にまで気を配りながら作られた作品だ。言葉遣いもシャープで、ネオカントリーに見られるような、70年代に流行った大げさな言い回しやツイッターで使用される仲間内の言葉などはいっさいない。ウェイトレスとして働くシングルマザーを歌う「ウェイティング・テーブルズ」や、空を見つめる農夫の曲「プレイング・フォー・レイン」、延び延びになった離婚がテーマの「テイク・ア・ピクチャー・オブ・ディス」といった楽曲は、リッチでヴィンテージなスティールギターの音色、そしてストレートなハーモニーで縁取られている。  このアルバムでは、すべてが曲中で語られる物語の心の痛みや癒しに捧げられている。それは、ヘンリーが誘った大勢のゲストにもあてはまる。アリソン・クラウスやトリーシャ・イヤウッド、ルシンダ・ウィリアムズのように、多くはバックコーラスを提供するのみだ。

『カス・カウンティ』という作品の本当のスターは、「ザット・オールド・フレーム」や「ワーズ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」といった楽曲で描かれる“挫折した者”であり、また彼の熟成したウィスキーのようなテノールであるといえる。彼の声は困難に立ち向かうと同時に癒しを与える。「ホエア・アイ・アム・ナウ」はテキサスを離れ、ヘンリー自身が羽目を外していた時代を思い起こさせる。“過去にはバカなこともした/まったくの愚か者だった”。しかし彼は主張する。“それでもどうにかやってきた/俺は今いる場所が気に入ってるのさ”。彼が気に入っている場所とは、故郷にほかならない。

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