U2のように再生し続けるロックバンドは、彼ら以外に存在しない。U2の存続期間と達成してきた偉業についてはもちろん、彼ら以上にさらなる再生とその頻度を追い求めるバンドはほかに存在しないだろう。5年ぶりのスタジオアルバムである本作は、リスキーかつダイナミックで、新生に焦点を当てている。人生を救う音楽の喜びを率直な歓喜として表現し、U2が培ってきたポスト・パンク、エレクトロニカ、そしてダンスミュージックの影響と探求により生まれた11曲が収録されている。

『ソングス・オブ・イノセンス』は、1789年に発表されたウィリアム・ブレイクの詩集『無垢の歌』にちなんで命名された。長きにわたりインスピレーションを、アメリカンフロンティア精神や、ユーロダンスパーティの皮肉や、マーチン・ルーサー・キングやネルソン・マンデラといった歴史上の活動家などに求めてきたボノ、ジ・エッジ、ベーシストのアダム・クレイトン、そしてドラマーのラリー・マレンは、長い回り道をして変身を遂げた。結成の地であるダブリンで、自分たちの人生を振り返り、自らの内面に目を向け、少年が大人になる過程で学んでいくかのように(それはU2というバンドの成長過程も同様であるが)、すべてを吸収していった。

ボノの歌詞は、個人的な経験に言及している。彼が昔住んでいたストリートの名前からつけられた「シダーウッド・ロード」では、今も聞こえてくる、そしてこれからも消えることのない、彼を音楽に向かわせることになった恐れと怒りの感情を回想している。“まだそのストリートに立っている/いまだ敵を必要としているんだ”と歌う。「ライズド・バイ・ウルヴス」は、メトロノームに似たグルーヴのテンションにのせて、70年代のある夜にダブリンを血で赤く染めた一連の自動車爆発をもとに、リアルライフの殺伐を表現した。

オープニングトラックの「ザ・ミラクル(オブ・ジョーイ・ラモーン)」は、U2のメンバーが、とりわけボノが、ダブリンを出るときに発した第一声にもとづいて名付けられている。U2は常にニューヨーク・パンクに謝意を表し、なかでもラモーンズに特に感謝を表してきた。これは、実は納得のいく敬意なのである。がっちりとしたギターリフに、T・レックスの足音のようなビートと、ザ・ロネッツの甘さをふりかけたような音楽。“僕は目覚めた”とボノは歌う。“ミラクルが起こったその瞬間/外の世界から意味ある歌を聞いた”

U2はまた、ザ・クラッシュに対してしかるべき敬意を、ジョー・ストラマーに捧げる楽曲「ディス・イズ・ホエア・ユー・キャン・リーチ・ミー・ナウ」の中で表している。また、ビーチ・ボーイズに対して抱いている羨望——ダブリンの荒砂や雨からはほど遠いところにある、ユートピアへの招待——は「カリフォルニア(ゼア・イズ・ノー・エンド・トゥ・ラヴ)」の中にちりばめられている。“真っ赤なサンセットは僕をひざまずかせる/僕はこの目に焼き付けた”とボノは感傷混じりの声で歌う。

これはロックンロールに古くから伝わる話だが、素晴らしいコーラスやパワーコードには、若者の不安、トラウマとなるような喪失、そして救済の啓示が隠されている。本作は、ソングライターやレコード制作者として培ってきた強さと不屈さをもって、U2が初めて自身の話を直接的に表したアルバムだ。

U2は、これがいつまでも続いていく救済だと信じている。“海岸で崩れるすべての波/それはまた新しい波が再びくる事を伝えてくれる”と、ボノは「エヴリ・ブレイキング・ウェイヴ」の満ち引くエレクトロニクスサウンドにのせて、約束している。そして「ザ・ミラクル(オブ・ジョーイ・ラモーン)」は、夢を追い続けるすべての人と固い契りをかわす。彼らは今、ラモーンズの『ロケット・トゥ・ロシア』か、ザ・クラッシュの『動乱(獣を野に放て)』か、はたまたU2の楽曲を初めて聴いているかもしれない。“僕には聞こえているよ”ボノは誓う。“君らの声は必ず届く”と。

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